当院で乳房再建用ティッシューエキスパンダー挿入術を受けられた患者様へ
7月末に日本でも大々的に報道されましたが、現在、インプラントを用いた乳房再建術後に極めてまれに発生するブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(Breast Implant Associated Anaplastic Large Cell Lymphoma, BIA-ALCL)という合併症が大きな問題となっています。
BIA-ALCLは、人間の体を流れ免疫をつかさどるリンパ球のがんです。このBIA-ALCLの発症に、アラガン社のテクスチャードタイプというインプラントが関連していることが指摘されています。製品名はナトレルシリーズです。
現在日本ではアラガン社(米国、本社はアイルランド)のティッシューエキスパンダー・インプラントのみが健康保険で認可され、使用できます。そのため本邦でティッシューエキスパンダー挿入、インプラントによる乳房再建をお受けになった多くの方がアラガン社の製品を使用されているのが現状であり、当院で使用しておりましたティッシューエキスパンダーも、アラガン社の製品(ナトレル)でした。当院ではインプラント挿入術は行っておりませんが、エキスパンダー挿入後インプラントによる再建をお受けになった患者様のほとんどの方がやはり、アラガン社のナトレルシリーズを使用されておられます。
BIA-ALCLの初期症状として、多くの場合、手術後に一定期間(平均9年とされています)が経過したにもかかわらず、インプラント周囲の腫れ、それに伴う乳房の増大、硬化、変形、非対称化、乳房周囲の疼痛、乳房や腋窩のしこり、発赤、などが現れてくるとされています。進行は緩やかであり、発症後速やかにインプラントとその周囲組織を外科的切除することで、治癒は可能とされていますが、完全切除が困難な場合は化学療法などが必要となり、命にかかわることもあると報告されています。
アメリカの食品医薬品局FDAは2019年7月24日アラガン社に対し勧告を行い、アラガン社は全販売地域での自主回収を発表しました。リコール対象は「バイオセル・テクスチャード・ブレスト・インプラント」ブランド名で販売されていた一連の製品です。それに伴い日本国内でも7月25日より自主回収が始まりました。
上記を受け、患者様に大変なご迷惑をおかけいたしますが、当院でもアラガン社の製品使用を完全に中止とし、ティッシューエキスパンダーを用いた同時再建術も安全な製品が使用できるようになるまで完全に中止とさせていただきました。
尚、このリンパ腫の発生リスクは3300人に1人(約0.03%)と低いものであり、また、インプラントによる再建をお受けになっておられる方に対して、予防的にインプラント摘出術を行うことは推奨されていません。
今まで通り、定期的な外来通院を継続いただき、気になる症状がおありの時には速やかにご連絡の上乳腺科を受診していただきますよう、お願い申し上げます。